図解 伊勢神宮
- 著者:神宮司庁
- 出版:株式会社 小学館
- 発行:2020年5月1日
- 価格:1,818円+税
- 頁数:159ページ
- 評者:井口 まどか
- 編集:スピりんく 編集部
スピリチュアルブログ版ダイジェスト
伊勢神宮は、地名をつけずに「神宮(じんぐう)」とだけ呼ぶのが正しい名称です。ほかの神宮と区別するために、地名の「伊勢」を冠して呼ばれるようになった経緯があります。
本書を執筆・編集したのは、神宮の事務を担う神宮司庁(じんぐうしちょう)です。神宮司庁は、内宮域にある大山祇(おおやまつみ)神社および子安(こやす)神社付近に位置します。
《神宮は125の宮社から成り立っている》
伊勢神宮は、天照大御神(あまてらすおおみかみ)をお祀りする内宮(皇大神宮)、および豊受大御神(とようけのおおみかみ)をお祀りする外宮(豊受大神宮)で知られています。
この両宮のほかに、伊勢市内およびその近郊には、14の別宮、43の摂社、24の末社、42の所管社があり、その数を合わせると125に上ります。実は、神宮はこの125の宮社をすべて含めた総称なのです。
本書には、125の宮社の名前がすべて記されており、また、広域マップで位置が示されています。
宮社の数は多いですが、本書を読むと、数日かけて1社1社をゆっくり巡ってみようという気持ちになります。
《神宮を取りまく環境について》
伊勢神宮は、三重県の東にある半島、伊勢志摩地方に位置します。海、山、川などの自然に囲まれ、風光明媚で食材が豊富であり、日本書紀に「美し(うまし)国」と記された場所です。
天照大御神を祀るのにふさわしい土地として選ばれ、以来2,000年以上にわたり、神宮はその地に鎮座しています。
伊勢の海は海産物という豊かな幸をはぐくみ、時に人々の穢れを浄化する場所です。また、山では、式年遷宮(しきねんせんぐう)の御用材を育てる林が神宮を取りまきます。
本書を読むと、その豊かな自然が、神宮の存続と人々の生活に欠かせない存在であることが伝わってきます。
《恵みに感謝する「神嘗祭(かんなめさい)」は最も重要なお祭り》
伊勢神宮では、年間約1,500回のお祭りが執り行われています。
「日別朝夕大御饌祭(ひごとあさゆうおおみけさい)」は、毎日朝夕の2回行われる、神々にお食事を奉る祭事です。
このほか、毎年決められた日時に行われる恒例祭があり、中でも10月15日~25日の10日間にわたって行われる「神嘗祭(かんなめさい)」が最も重要とされています。
神嘗祭では、その年に収穫された新米を最初に天照大御神に捧げ、収穫の恵みに感謝するお祭りです。
稲作を中心とした生活を営んできた日本人にとって大変意味のあるお祭りであり、神嘗祭を中心にほかの祭典が行われているといっても良いほど重要なものなのです。
本書を読むと、五穀豊穣への感謝と祈りの大切さを教えられます。
《「式年遷宮(しきねんせんぐう)」は技術と精神を守り続けるための智恵》
伊勢神宮では、20年に1度、「式年遷宮」が行われます。
式年遷宮は、内宮および外宮の社殿や神宝をすべて新しくし、大御神に新宮へお遷りいただくための祭典です。
社殿の造営では、同じ形の社殿が新しく造り替えられます。その御用材は、神宮を取りまく林で育てられ、古くから伝わる伝統の技法で、宮大工が手作業で製材します。
第1回の式年遷宮が行われたのは、第41代持統(じどう)天皇が即位していた690年です。
以来、1,300年以上にわたり、社殿は20年に1度新しく造り替えられつつ、古き伝統や技術は変わらず継承されています。
本書を読むと、式年遷宮の意義および伝統技術と精神を継承するための智恵に感銘を受けます。
目次
- はじめに
- 第1章 神宮の自然
- 第2章 神宮の歴史
- 第3章 神宮のお祭り
- 第4章 神宮と神都
- 第5章 神宮の文化と伝統
- 第6章 神宮の基礎知識
- 神宮略年表
- 神宮と神道の用語辞典
一言コメント
伊勢神宮に関する貴重な写真の数々が惜しみなく掲載されており、それぞれの場面をイメージしやすいのが本書の特徴です。豊かな自然に囲まれた伊勢神宮の魅力が伝わってくるのはもちろん、神宮の歴史をつなぎ、守り続ける人々の力にも深い感銘を受ける1冊です。
注目の文章ピックアップ
・日本人は自然の営みに感謝を捧げ、自然災害を恐れ、八百万と言われる神々に祈りを捧げる生活を送っていました。
・その歌詞に「伊勢へ行きたい 伊勢が見たい せめて一緒に一度でも」とあるように、伊勢神宮は庶民の夢でもあったのです。
・いにしへの 姿のままにあらためぬ 神のやしろぞたふとかりける
・「巨木の森の沈黙の語りかけが建物を包みこみ、それを気高いものにしております」
・「神宮の美しい自然とそれを維持する人々の態度、神宮の平和的な環境は素晴らしいものだと感じた」
・天照大御神を伊勢の地にお祀りして以来、神宮ではお祭りを絶やすことなく続けています。
・神宮では二〇〇〇年以上にわたり、稲が芽吹き、稔るという稲作の周期とともにお祭りが行われ、そのなかで天照大御神のご神徳をたたえ、ご神恩に感謝し、国家の隆昌と国民の幸せをお祈りしています。
・収穫の恵みに感謝するこのお祭りは、私たち日本人が稲作とともに暮らしてきた歴史と生活そのものなのです。
・式年遷宮は未来永劫、精神や技術を守り続けていくための神宮の智恵なのです。
・社殿の造営の過程には大量の良材の準備や数多の人々の奉仕、技術の伝承がありました。
・日の出を仰ぐ伊勢には豊かな山と森、清らかな川、そして常世の浪が打ち寄せる海が私たちを優しく包み込んでいます。
・正しい作法を通じて心を静かに整え、神様に感謝の気持ちをお伝えしましょう。