怒らない禅の作法
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- 著者:枡野俊明
- 出版:河出書房新社
- 発行:2016年4月20日 初版発行
- 価格:520円+税
- 頁数:206ページ
- 評者:池田 孝史
- 編集:スピりんく 編集部
スピリチュアルブログ版ダイジェスト
変化が多く先の見えない世の中を生きていると実態のわからない不安や恐れに遭遇することがあります。そんな中で人との関わりで生まれてくる怒りの感情、この「怒り」に苦しめられている人は多いのではないでしょうか?
実は仏教では人に対する恐れや他人に対する嫉妬心、また自分に対する嫌悪感や落ち込む感情も、本質的にはこの「怒り」と表裏一体であると考えられています。そんな怒りの感情を消し去って、世の中を快適に生きる方法を「怒りの正体」「怒らない心」「怒らない体」「怒らない生活」というテーマ別で解説し、そして後半にケーススタディ形式で「怒りを消し去るための禅の作法」が本書では具体的に紐解かれています。
例えばすぐに怒る人と、常に穏やかな人の違いはなんなのでしょうか?それは日常の心の状態の違いです。駅のホームで待っているときに電車が遅れてイライラしたり、コンビニのレジがもたついていて「早くしろ」と店員に暴言をぶつけてしまう人もいます。しかし一方で電車が遅れた際に「時間ができたから本でも読もう」と切り替えられたり、レジがもたついていても「ゆっくりで良いですよ」と穏やかに声をかけられる人がいるのも事実です。電車が遅れていることやレジがもたついている事は怒りの原因ではなく、ただの引き金です。すぐにイライラしたり怒りの感情に流されてしまう人は、普段から心がストレスやプレッシャーにさらされて、ピンっと張り詰めた生活をしていることが根本的な原因と考えられます。また心のプレッシャーを緩めて、しなやかな心で生活するヒントがいくつかの項目に分けられて紹介されています。
例えば湧いてきた怒りは、無理になんとかしようと思わずに放っておくことという方法があります。これは近年注目されているマインドフルネス関連の書籍でも紹介されていることがありますが、「怒ってはいけない」「忘れよう」と思えば思うほど心がその怒りにフォーカスされて、さらに心は掻き乱されていきます。考えないということに執着すればするほど、余計に考えてしまうという経験が真面目に生きていれば誰にでもあります。
そんな時は「今怒っている」「今〇〇のことで私はムカついた」と思い切って認めてしまい、そのことを無理矢理消そうとせず放っておく方が良いのです。怒りの感情に手を加えず、自由に泳がせておいた状態で目の前の物事に集中すること。そうしておくといつしか波だった感情が嘘のように消えていく事を私自身も経験しています。また後半のケーススタディでは「自分への怒り」「家族への怒り」「仕事での怒り」というテーマごとに紹介されていますが、仕事関連では上司からのパワハラ問題や、若者との価値観のギャップで部下の教育に悩んでいる人に大いに役立つ内容です。
禅の考えは「他人との比較」や「こうあるべき」という固定概念への囚われを嫌います。他にも食生活や掃除のススメなど、この文章では載せ切れなかった禅の作法も多数紹介されているので、怒りで苦しんでいる人や、生きにくさから解放されて飄々と生きる手段を獲得したい人にはぜひ手に取って欲しい一冊です。
目次
- はじめに
- 第1章 「怒らないこと」は、なぜ難しいのか?
- 第2章 「怒らない人」になる禅の習慣43
- 第3章 ケーススタディ 怒りを消し去る禅の作法
- 第4章 人生が変わる「怒らない生き方」
- おわりに
一言コメント
近年怒りを鎮めるノウハウ本は数多く出版されていますが、精神論に偏った本も多いように思われます。精神論、いわゆる認知の修正に加えて掃除をするなどの行動の活性化、また呼吸法による身体的アプローチなど怒りに対して総合的アプローチとなっているのが、この禅の作法にあると言っても過言ではないと感じました。
注目の文章ピックアップ
・心にしなやかさを取り戻すことが、怒りから自由になるための大きなポイントといえます。
・自分では人脈を広げているつもりでも、本当に心許せる間柄の人は意外に少ないはずです。実は必要以上に人間関係を広げるのも怒りの原因になります。
・今あなたの目の前にあることを、ただ無心に、ただひたすらやるのです。手を動かし、足を動かし、体を動かしていると、いつしか波立っていた心が、静かに澄んでいることに気づくでしょう。
・大切なのは頭の切り替えです。寝る前の時間の過ごし方によって、睡眠の質が全く変わってきます。時間に余裕があれば三時間前から睡眠モードに入る準備を始めましょう。
・では、どうやって苦手な相手の長所を探しましょうか。まずはかけていた色眼鏡を外して、今日初めて会った人だと思い、相手と接してみることです。
・人は人、私は私。誰があなたを攻撃しようと、「私はこの道を行く」と悠々と歩いていけばいいのです。
・「蓮は泥より出でて泥に染まらず」。自分の仏性を磨いていけば、どんな環境にいてもその影響を受けることなく、心穏やかに自分の花を開かせることができるのです。
・欲やこだわりをひとつ捨てるたびに、怒りや不満をひとつ手放すたびに、人は軽やかになり、雲のように水のように柔軟に生きられるようになります。